画像処理と塗膜劣化曲線を利用した防食性評価
水篠孝太郎,北村俊也,赤嶺健一,湯瀬文雄,松林拓人
水篠 孝太郎 技術開発本部技術基盤センター先進生産プロセス技術部
北村 俊也 技術開発本部技術基盤センター先進生産プロセス技術部
赤嶺 健一 技術開発本部技術基盤センター先進生産プロセス技術部 主幹 博士(水産科学)
湯瀬 文雄 株式会社神戸製鋼所
松林 拓人 株式会社神戸製鋼所
合金添加鋼と従来のSM鋼に塗装をした試験片について,屋外暴露試験を5年7か月実施した.経時で撮影した試験片の外観写真から,画像処理を用いることで劣化面積を算出し,塗膜劣化曲線を作成することができた.曲線によって塗装系ごとの劣化進展程度や合金添加鋼がSM鋼よりも良好な防食性を有していることが示された.
Coated specimens of alloy-added steel and conventional SM steel were subjected to an outdoor exposure test for 5 years and 7 months. By applying image processing to photographs of the specimens taken at different time intervals, the degraded areas were quantified, and coating degradation curves were generated. These curves revealed the progression of degradation for each coating system and demonstrated that alloy-added steel exhibits superior corrosion resistance compared to SM steel.
1. はじめに
社会インフラの長寿命化が進んでおり,橋梁などのインフラ構造物で使用される鋼材は高強度かつ高耐食であることが望まれている.また,鋼材を塗装と併用することにより鋼材の防食性は向上する.しかしながら,塗装の耐用年数は構造物自体の供用年数より短いため,適切なタイミングで塗替え塗装を実施する必要がある.したがって,塗装におけるライフサイクルコストを計算する際には,新設時のイニシャルコストに加え,塗替えコストが加算されることを考慮しなければならない.塗膜の寿命を延ばすことができれば,塗替えの頻度を低減できるため,ライフサイクルコストを低減することが可能となる.例えば,供用年数100年の橋梁の塗装において,塗替え期間が約30年であれば,供用期間中において3 回の塗替え塗装を要する.一方で,塗替え期間が約50年であれば,1 回の塗替え塗装のみで供用期間を終えることが可能である.
「一般塗装系塗膜の重防食塗装系への塗替え塗装マニュアル」 ( 1 ) において,インフラ構造物の管理者には,定期点検により塗膜の健全度を評価し,防食機能が合理的に維持されるように塗替え時期を判定することが求められている.このとき,目視により塗膜外観を調査し,錆(さび),はがれ,変退色などの塗膜外観の変状を指標として塗膜の状態を標準写真などと対比し,数段階で評価するのが一般的である.しかしながら,塗膜は周囲の環境に曝(さら)されながら刻々と劣化していくものであり,適切な塗替えタイミングの判断が困難なことも多い.塗膜の寿命について精度良く見積もるためには,各種鋼材と塗装の組合せにおいて,塗膜がどの程度劣化しており,時間とともに劣化がどのように進展するかを定量的に把握することが重要である.「鋼構造物塗膜調査マニュアル」 ( 2 ) においては,画像処理技術を用いて塗膜劣化状態や形態を客観的に評価することが提案されている.
本研究においては,5年7か月という期間における屋外暴露試験データを用い,塗膜の防食性評価や寿命の予測を試みた.その際に,試験片の画像処理と塗膜劣化曲線によるデータ解析を用い,その妥当性について検証した.
2. 方法
2.1 試験片の作製
鋼材としてサイズ150 × 70 × t6 mmのSM鋼および合金添加鋼を用いた.SM鋼は橋梁などで用いられる一般的な鋼材であるSM490とし,合金添加鋼はCuやNiを添加し,開発した鋼材とした.各鋼材の上にアルキド樹脂塗装系(総膜厚125 μm),ウレタン樹脂塗装系(総膜厚250 μm),ふっ素樹脂塗装系(総膜厚250 μm)の3 種類の塗装系で第1表のとおり塗装を実施した.アルキド樹脂塗装系は下塗りに錆止めペイントを塗装し,中塗りと上塗りはフタル酸樹脂系とした.ウレタン樹脂塗装系とふっ素樹脂塗装系は,第 1層として無機ジンクリッチペイントを塗装し,その上に下塗りとしてエポキシ樹脂系,中塗り,上塗りとしてそれぞれウレタン樹脂系,ふっ素樹脂系を塗装した.塗装間隔は各塗料で規定された標準のものとした.塗膜傷部からの劣化の進展を確認するために,試験片の半分に,クレーメン式硬度計(ERICHSEN社製モデル639)を用いて第1図のようにクロスカットを導入した.クロスカットは長さ60 mmの傷を90 度で交差させるようにした.
2.2 屋外暴露試験の実施
作製した試験片について屋外暴露試験を行った.2017 年2 月に一般財団法人日本ウエザリングテストセンター宮古島暴露試験場の架台に設置して試験を開始し,2019 年5 月からは,より海岸に近い宮古島海岸暴露場の架台に試験片を移動させた.暴露試験中の様子を第2図に示す.クロスカットを導入した部分で発錆(はっせい)し,錆が流れていくことを想定し,一般部に流れ錆が付着しないよう,クロスカット部を下にして設置した.
2.3 画像処理
試験片のクロスカット部近傍に発生した外観変状面積の評価を行った.ここでいう外観変状面積とは外観上クロスカット部から広がった赤錆が認められる部分である.次の二つの手法 ( A,B )を採った.
屋外暴露試験を5 年7 か月実施した後の試験片の外観変状面積については,試験片を手元に有していたため,撮影を含めて評価を実施した ( A ).撮影にはカラーカメラと単焦点レンズ,リング照明を用いた.撮影機器および撮影条件について第2表,第3表に示す.また,撮影時のセットアップを第3図に示す.第3図では明るく写っているが,実際は暗室環境下で撮影を実施した.
撮影できた画像のうち,第4図のようにクロスカットを導入した部分のさらに半分の領域を評価対象とした.これは,試験片端部に近いクロスカット部において,端部から発錆して流れてきた錆の影響が大きく見て取れたためである.この評価対象領域において,第5図のような明度のヒストグラムを作成した.
さらに,ヒストグラム中で明度の閾(しきい)値を設け,明るい部分と暗い部分の二値化画像を作成した.閾値より明度が小さい領域は白く,大きい領域は黒く表示される.閾値は赤錆の生じている部分と赤錆が垂れているだけの部分(流れ錆の部分)が分離できるように目視にて判定した.第6図に閾値を変化させた場合の二値化画像の例を示す.閾値を25とした場合,初期のクロスカット部のみが外観変状面積として評価される.一方で,閾値を110とした場合,流れ錆を含めた領域が外観変状面積として評価される.閾値を65とすることで流れ錆を含まない発錆領域を外観変状面積とすることが可能である.このことを踏まえて,閾値を明度65として評価を進めた.作成した二値化画像の白い部分,すなわち発錆しているとみなされた箇所のピクセル数から外観変状面積を導出した.例えば,第4図に示した試験片の場合は,外観変状面積が133.96 mm2と算出された.
試験片の経時での劣化程度を分析するためには過去の試験片のデータを必要とする.そこで,過去に手持ちのカメラで撮影した画像データに着目し,そこから外観変状面積を算出することを実施した ( B ).屋外暴露試験を1 年,3 年,4 年実施した後の試験片の画像を収集し,第7図のようにトリミングによって評価対象領域を抽出した.その際,スケールは試験片の長辺が150 mmとなるように調整を行った.手法Aの場合と同様に,評価対象領域において,明度のヒストグラムを作成した.閾値の設定に際して,試験片ごとに撮影環境が異なるため,画像ごとの閾値の判断が求められるが,試験片の白地部分(塗装一般部)の明度を用いて人為的な判断が最小限となるようにした.具体的にいえば,初めの1 枚の試験片については赤錆の生じている部分と赤錆が垂れているだけの部分(流れ錆の部分)が分離できるように目視で閾値を決定し,その他の試験片は試験片の白地部分(塗装一般部)の実際の明るさがすべて同じであることを仮定し,画像上での白地部分の明度の比から閾値を算出した.閾値を基準として二値化画像を作成し,白い部分のピクセル数から外観変状面積を導出した.
AとBの手法を比較した場合,撮影環境を整えたAの方がより精度の高い評価が可能であると考えられる.計測に用いたすべての試験片画像を第4表に示す.
2.4 塗膜劣化曲線の作成
塗膜寿命予測の数式モデルとして,Gompertz曲線を用いた.この曲線はクロスカット部のふくれ面積と促進暴露時間との関係を近似するために使用された例があり ( 3 ),本研究では外観変状面積と屋外暴露時間の関係に対して適用することで,初期段階の塗膜劣化面積率から長期間の劣化を推定することを試みた.Gompertz曲線は( 1 ) 式のように表される.ただし,yは劣化面積,tは時間,Kは全面劣化時の面積である.
初期の劣化面積率を0.5%と想定し,式中のaは0.005とした.また,クロスカットを導入した初期試験片の測定データの平均と評価対象面積を用いてKを算出した.さらに,画像処理により得られた外観変状面積のデータから,最小二乗法を用いてbを決定した.Gompertz曲線では劣化面積率が全体の6.6%となる点が急増点となり,全体の36.8%となる点が変曲点となる.この急増点から変曲点までが実用的塗替え時期として提案されており,これを基にして各種塗装系の塗替え時期の目安を算出した.
3. 結果と考 察
3.1 試験片画像と外観変状面積の対応
第5表に試験片画像と外観変状面積の対応を示す.これを見ると,画像における劣化程度と算出された錆面積との間で対応が取れていることが確認される.例えば,外観変状面積が最も大きく評価されているSM鋼へのアルキド樹脂塗装試験片が画像上でも発錆の程度が大きく,外観変状面積が最も小さく評価されている合金添加鋼へのふっ素樹脂塗装試験片が画像上でも最も発錆が穏やかである.
3.2 塗装系ごとの劣化程度の差異
SM鋼に塗装した試験片の塗膜劣化曲線を第8図に示す.これは,塗装系ごとの劣化面積率の経時変化を示すものである.また,6.6%,36.8%と示した点線はGompertz曲線における塗膜の実用的塗替え時期の範囲を示す.3 種のうちアルキド樹脂塗装系が最も短寿命側に位置していた.これは,他の塗装系と比較して膜厚が小さかったうえに,犠牲防食効果を有する無機ジンクリッチペイントが入っておらず,錆の進展が大きかったためと考えられる.ウレタン樹脂塗装系とふっ素樹脂塗装系を比較すると,ふっ素樹脂塗装系の方が小さい劣化速度を示している.これはふっ素樹脂塗膜に錆汁の付着抑制効果があったことや良好な耐候性によって紫外線による劣化が抑制されたことが影響していると考えられる.クロスカット部からの外観変状面積の拡大は傷部からの横方向の進展だけでなく,表面からの塗膜劣化も複合的に作用しているため,ふっ素樹脂塗装系の変状が最も小さく見えたと推測される.
3.3 鋼材種ごとの劣化程度の差異
SM鋼と合金添加鋼に塗装した試験片の塗膜劣化曲線を第9図に示す.すべての塗装系において,合金添加鋼の方が長寿命側に位置しており,良好な防食性を示した.合金添加鋼にはCuやNiが添加されており,鋼材自体の耐食性が向上している.この効果により塗装試験片においても外観変状面積の広がりが抑制されたと考えられる.
3.4 塗膜塗替え時期
塗膜劣化曲線から算出された塗替え時期の目安を第10図に示す.本推定は宮古島の2 地点で暴露した試験片について,クロスカット部から外観上変状していると判断した面積の拡大傾向をGompertz曲線から評価した結果であり,非常に限定された条件のもとでの評価であることに留意されたい.SM鋼において示された塗替え時期は,アルキド樹脂塗装系が6 ~ 15 年,ウレタン樹脂塗装系が11 ~ 27 年,ふっ素樹脂塗装系が16 ~ 41 年であった.上塗り塗装の劣化速度と目標膜厚から計算すると,ウレタン樹脂塗装系は12.5 ~ 25 年,ふっ素樹脂塗装系は25 ~ 50 年の寿命となるが ( 4 ),この目安とおおむね一致する結果が得られた.今回は目視での閾値の探索により,同じく目視で判定される塗替えの目安と近い結果が得られたと考えられるが,閾値のより精密で客観的な決定方法を検討することは今後の課題とする.また,合金添加鋼はSM鋼と比較して,いずれの塗装系においても塗替え時期が延びており,塗膜の長寿命化やライフサイクルコストの低減を見込めることが明らかになった.一方で,合金添加鋼に塗装したふっ素樹脂塗装系の塗替え時期は40 ~ 99 年と算出され,想定よりかなり長くなった.短い暴露時間からの推定であり,長寿命の推定に対しては評価点が少なかった可能性がある.今後も継続してデータを取得していくことでモデルを検証し,寿命予測の精度を上げることが求められる.
4. まとめ
屋外暴露試験を実施した各種塗装試験片について,画像処理と塗膜劣化曲線の考え方を用いて防食性評価を実施した.結果を以下に示す.
- 実際の試験片を撮影した場合と過去に撮影された画像の場合の両方で,明度に閾値を設け,二値化することによって外観変状面積を定量化した.また,定量化した錆面積を用いて,塗膜の劣化挙動を推定できるGompertz曲線を作成した.塗膜劣化曲線から算出された塗替え時期は,一般に知られた目安とおおむね一致していた.
- CuやNiを添加した鋼材はSM鋼と比較し,いずれの塗装系においても防食性が向上していることが示された.このことから,塗膜の長寿命化およびライフサイクルコストの低減を見込むことが可能である.
参考文献
(1) 一般社団法人日本鋼構造協会:一般塗装系塗膜の重防食塗装系への塗替え塗装マニュアルJSS Ⅳ 11-2014,2014 年,p. 109
(2) 一般社団法人日本鋼構造協会:鋼構造物塗膜調査マニュアルJSS Ⅳ 03-2018,2018 年,p. 74
(3) 伊藤義人,金 仁泰,貝沼重信,門田佳久:素地調整が異なる塗装鋼板の腐食劣化に関する基礎的研究,土木学会論文集,No. 766/Ⅰ-68,2004 年,pp. 291-307
(4) 一般社団法人日本鋼構造協会:重防食塗装 ― 防食原理から設計・施工・維持管理まで ―,2012 年,p. 170(防錆管理,2024 年,68 巻,7 号,pp. 21-26より転載)