太陽光発電を活用した農業用水供給の脱炭素化技術
太陽光発電の発電電力を最大限活用可能なエネルギーマネジメント技術を統合した水管理システム
株式会社IHIインフラスクエア
はじめに
近年,地球温暖化の進行とともに,持続可能な社会の実現に向けたカーボンニュートラルへの取り組みが急務となっている.農業分野では,用水供給に伴うエネルギー消費が温室効果ガス排出の一因となっており,再生可能エネルギーの導入・活用によるCO₂排出削減が求められている.農業用水の需要は天候や作物生育に大きく左右され,太陽光発電は発電量が変動的であるため,用水需要を満足しながら発電電力を効率的に利用することが課題である.
株式会社IHIインフラスクエアでは,農業用水の運用を支援する水管理システムに太陽光発電システムを連結して,農業用水の需要と太陽光発電の発電電力を予測し,発電電力を最大限利用する水・エネルギー管理システムを開発した.
農業用水需要と発電量の予測による揚水計画最適化
開発したシステムは,農業用水需要と太陽光発電量の予測結果から,発電を最大限活用することで購入電力が最小となるように最適化した揚水計画を作成する.なお,揚水計画とは,川などから水をポンプでくみ上げて供給する揚水機場で,1 日のうちにどの時間帯にどのくらいの水をくみ上げるかをあらかじめ決めた予定表のことである.
- (1) 農業用水需要予測
- 農業用水需要予測は,国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構が開発したモデルを採用した.これは,気象要素や過去の農業用水実績を基に,未来の需要を予測するモデルとなっている.このモデルにより,気温や日射量などの気象予報データも参考にして,日単位・時間単位での需要変動を予測し,揚水計画の基礎データとしている.
- (2) 太陽光発電量予測
- 太陽光発電量の予測には,1 時間ごとの気象予報データに基づき,発電設備の位置と太陽光パネル角度から,傾斜した面が受ける太陽光の強さである斜面日射量を算出するとともに,太陽光パネル面積と発電性能を考慮して発電電力を推定する手法を採用した.これにより,気象の変化に対応して,1 時間ごとの発電可能な電力量を事前に把握し,計画的なエネルギーの利用を可能とする.
- (3) 揚水計画最適化
- 農業用水需要と太陽光発電量の予測結果を基に,用水需要を満足しながら発電電力を最大限活用し,時間帯別の電力価格も考慮して購入電力が最小となるように,揚水ポンプの運転計画を最適化するアルゴリズムを開発した.最適化手法には,条件を満たしながら最適な組み合わせを求めるための代表的な手法で,細かい場合分けに分解し,不要な探索は省いて効率的に解を見つける分枝限定法を適用した.
最適化された揚水計画は,発電量が多い日中の時間帯に需要以上の揚水を行って貯水しておき,夜間には必要最低限の揚水運転となった.
CO₂排出削減効果の検証
開発したシステムの効果を検証するため,実際の揚水機場の建屋の上に太陽光発電設備を設置して実証試験を行った.試験は,農業用水需要に影響する季節や天気,揚水計画に影響する太陽光発電容量を条件として,条件の違いによる予測精度やCO₂排出削減効果を確認した.
実証期間中,農業用水需要と太陽光発電量の変動に応じて最適化した揚水計画に従ってポンプ運転を行い,稼働データを収集した.期間中の使用水量から従来の水位に基づいた運転方式での購入電力量を試算し,揚水計画による運転と比較した結果,1 日平均369 kWhから240 kWhと35%の削減となった.太陽光発電のみの場合では平均15%削減だが,揚水計画の最適化により20%向上することを確認した.CO₂排出削減効果は,実証期間の合計が1.4 t-CO₂となり,年間では15.5 t-CO₂の削減が見込まれることを確認した.
今後の取り組み
今後は,本技術を複数の揚水機場や他地域へ展開するとともに,既設の水管理システムへの機能追加による導入も進め,適用範囲の拡大を図る.
これにより,再生可能エネルギーの有効活用と農業用水の効率化を実現し,農山村地域における脱炭素化と持続可能な水管理の推進に貢献していく.