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航空機エンジンのインテーク空力技術

大庭芳則,小久保諒一,楠田真也   

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大庭 芳則  株式会社IHI 航空・宇宙・防衛事業領域 技術開発センター 要素技術部
小久保 諒一 株式会社IHI 航空・宇宙・防衛事業領域 技術開発センター 要素技術部
楠田 真也  株式会社IHI 航空・宇宙・防衛事業領域 技術開発センター 要素技術部 博士(工学)

航空輸送における比燃費の低減と環境負荷低減への要求を受け,ターボファンエンジンの開発は,より高いバイパス比を持つエンジンへと進み続けている.
高バイパス比エンジンを設計する際には,ファン径およびナセル(エンジンを囲う流線形カバー)径の大型化により,ナセル抗力と重量の増加を招く.
将来の民間航空機において,より大きなファン径がナセルの空力性能および重量に及ぼす影響を最小化するためには,ショートインテーク(空気取込み口の短縮化)およびスリムラインナセル(ナセルの外部形状をより薄くすること)が必要な技術となる.
ショートインテークは内部の空気の拡散性能を低下させ,インテーク表面での境界層剥離の発生によりファン入口流れのインレットディストーション(吸気口に流入する空気の流れが不均一になる現象)のリスクを増大させる可能性がある.
インテーク内で生じる流れ現象を調べるため,国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構( JAXA )の小型回転ファン装置を用いた実験が行われ,得られた実験データを基に数値流体力学( CFD )解析を行った.
その結果として,将来の低燃費航空機エンジンに貢献するための実験およびCFD解析の技術力向上を図ることができた.

For demands of lower specific fuel consumption and environmental impact of aircraft transport, turbofan engine development continues towards ever increasing bypass ratio in engines. In designing higher bypass ratio engines, the larger fan diameter and nacelle size result in increase in nacelle drag and weight. A short intake and slim-line nacelle are needed technologies to minimize the impact of larger fan diameter on nacelle aerodynamic performances and weight in the future civil aircraft. However, a short intake may reduce internal aerodynamic diffusion capability and increase risk of fan inlet distortion due to occurrence of boundary layer separation on inlet surfaces. The flow phenomena that occur in an intake are investigated using a small rotating fan test rig in Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA). Computational fluid dynamics (CFD) simulations using test data validated the technical capabilities in experimental methods and CFD analysis that will contribute to the development of future fuel-efficient aircraft engines.


1. 緒言

近年,航空機用ターボファンエンジンの性能向上として高バイパス比化による推進効率の向上 ( 1 )に加えて,エンジンを囲うナセルについても外部抵抗の低減やインテークの軽量化により,推進システム全体として性能向上を図る設計が検討されている.

具体的には,ナセル外部形状をより薄くするスリムラインナセル( Slim-line nacelle )化と,ショートインテーク( Short intake )化が検討されている.スリムラインナセル化は,ナセル前面のラム抵抗(エンジンが吸入する空気の運動量変化によって生じる抵抗)や造波抵抗を低減することができる.また,ショートインテーク化は,インテークリップからファン動翼までの距離を短縮することでファンに流入する境界層厚さを極力小さくし,壁面摩擦抵抗を低減することに寄与する ( 2 ).

さらに,構造的な観点からも短縮化によりインテーク部を軽量化でき,その結果としてエンジン燃料消費( Fuel burn )の軽減につながる.
一方,ショートインテークを適用するデメリットは,インテーク全長が短くなることで,インテークスロート面とファン前面とで作られるディフューザ部の軸方向距離に対する減速率が大きくなり,壁面境界層厚さが増加する.また,境界層剥離が発生し,かえってインテークの総圧回復率を悪化させるリスクもある.

また,境界層剥離によって発生した渦がインレットディストーション(吸気口に流入する空気の流れが不均一になる現象)を増大させて,偏った流れ場をファン動翼が吸い込むことで,ファンおよびエンジン作動の健全性が損なわれる恐れがある ( 3 ).

このようにショートインテーク自体もインレットディストーションの一因となり得るが,インレットディストーションを引き起こす要因はこれに限られない.インレットディストーションの発生要因は,横風発生時,離着陸時の高インシデンス(迎角),地上運転時のグランドボルテックス(地表面付近でエンジン吸気により発生する渦),機体表面から吸引される渦など多岐にわたる.特に横風によるインレットディストーションの発生は地上運転時,離着陸時および巡航時において想定する必要がある現象である.
横風によりインテーク内の流れが傾くことで強制的に高インシデンス状態となり境界層剥離を引き起こす.この剥離による渦は,インテーク内の横風上流側に大きなディストーションを発生させる ( 4 ).

そのため,横風発生時のインテーク内のディストーションの把握は,インテーク/ナセル設計に加えてファンの空力・エアロメカ・騒音などを予測するうえでも重要である.
このような背景のもと,インテーク/ナセルの空力性能向上やファンへの影響を詳細に捉えるために関連する研究が行われている ( 5 ) ~ ( 7 ).

2. インテーク形状

本研究では,インテークによる流れ場への影響を把握するため,ベルマウス形態,フライトインテークのノミナルインテーク形態,フライトインテークのショートインテーク形態の3 形態を研究対象とした ( 8 ).
これらインテークを対象に小型回転ファン実験による計測データの取得および数値流体力学( CFD )解析を実施した.

2.1 ベルマウス形状の詳細

第1図にインテーク形状を,第1表に図に対応したインテーク概略寸法を示す.ベルマウスはファン動翼および下流側モータ軸を中心に軸対称形状となっている.
インテーク長はファン動翼前方の空気力学的な評価断面(Aerodynamic Interface Plane,以下AIP)とベルマウスリップ先端までの距離とした.

ここで,AIPはインテークとファン動翼との間に設定される断面であり,インテーク形状および外部空気環境(地面効果,横風条件)が作る流れ場がファン動翼にどのように流入するかを評価するための基準面である.実験模型は内壁面に静圧孔があり位置は最上流位置をST1として順番に番号を設定して,周方向等間隔16 位置で軸方向に10 点( ST1 ~ ST10 )の合計160 点である.

第1 図 インテーク形状 Fig. 1 Intake geometry
第1図 インテーク形状
Fig. 1 Intake geometry

2.2 フライトインテーク形状の詳細

実機エンジンが航空機に搭載される場合,主翼や機体胴体に対する相対位置や飛行状態が考慮されてインテーク形状が設定される.

航空機主翼の静圧場や機体胴体の境界層厚さによってインテーク近傍の流れ角度が変化することや,インテーク前面投影面積に応じて作られるラム抵抗を抑える必要があることから,ベルマウスインテークに対してフライトインテークリップ形状は薄く先端の曲率半径が小さくなっている.

インテーク入口リップ径(ハイライト径),スロート径を設定して,第1表に示すインテーク形状の模型を製作した.ノミナルインテークのLinlet / Dfanは代表的なナセル形状を参照して0.5とした.
ショートインテークは,ノミナルインテークとスロート半径位置とAIPの直径を同じにして,Linlet / Dfan = 0.35で推進効率が最大となる推定された長さ ( 2 )とした.

主翼の下に搭載されるエンジンの場合,巡航飛行条件で主翼の上下面の静圧差が主翼前縁の上流の流れ角度を変化させる効果( Upwash )と,巡航時の機体姿勢の迎角により,搭載されるエンジン軸に対して角度のある流れが流入する.
このため,インテーク面に対して軸方向に真っすぐな外部空気をファンが取り込めるように考慮して,一般的にインテークには3 ~ 5°インテーク面を傾けるようにトップ側よりもボトム側のリップ先端が後方にシフトする角度(ドループ角度)が適用される.

本研究では,ドループ角度は5°に設定した.インテークのリップ径,スロート部およびファン直径が同一であり,軸方向長さが異なるため,ショートインテークの方がリップ部の曲率が大きく,スロートからディフューザにかけて流路断面積の変化率が大きい形状である.
模型は周方向に45°等間隔の8点で軸方向に7点の合計56点の壁圧計測ができ,最上流位置をST1として順番に番号を付けた.

第1 表 インテーク概略寸法 Table 1 Schematic geometry of intake
第1表 インテーク概略寸法
Table 1 Schematic geometry of intake

3. 実験とCFD解析

3.1 小型ファン実験装置

第2図に本研究で用いたJAXA小型回転ファン装置および断面図を示す.

ファン動翼(14 枚)と静翼(40 枚)を直管ダクト内に有しており,電動モータ駆動により無段階で任意のファン回転数を制御できる装置で,ファン動翼の上流側のインテーク部を換装できる.

インテーク壁面内部には,内壁面全周に設けた複数の静圧孔とインテーク後方の静圧計測チューブとを接続するための計測ラインが設けられている.
実験装置はトップ側(周方向0°位置)から固定架台により空中に吊られており,インテーク入口と地面や実験室壁面との距離を離すことで壁面の影響を抑えるように配置されている.実験はJAXAの多目的低騒音風洞 ( 9 )で実施した.

第2 図 JAXA 小型回転ファン装置およびその断面図 Fig. 2 JAXA small fan and experimental setup
第2図 JAXA 小型回転ファン装置およびその断面図
Fig. 2 JAXA small fan and experimental setup

3.2 CFD結果

3.2.1 ベルマウス形態のCFD流れ場

第3図にベルマウスインテークのCFD解析結果 ( 8 )をファン中心断面でのマッハ数コンター図で示す.外部空気はインテークリップを回り込み,加速されながらリップ形状に沿って流れ込む様子が分かる.
加速された流れはノーズコーンの存在により流路面積が狭まるためさらに加速されてファンダクト出口に到達する.
局所的に見ると,インテークリップと直管部が接続されるスロート位置近傍で局所的な加速-減速があり,インテーク外周の境界層がダクト内で成長する様子も観察できる.

第3 図 ベルマウスインテーク内マッハ数コンター図 Fig. 3 Mach number contours in bellmouth intake
第3図 ベルマウスインテーク内マッハ数コンター図
Fig. 3 Mach number contours in bellmouth intake

3.2.2 フライト形態のCFD流れ場

第4図にフライト形態でノミナルインテークおよびショートインテークについてインテーク中心断面のマッハ数コンター図を示す.
ベルマウスインテークと異なり,インテークリップの曲率半径が小さくなっているので,リップ先端からスロート部までの局所的に加速が大きくなっており,マッハ数0.2以上の領域が発生している.
トップ側とボトム側との比較では,ドループ角度が設定されているためトップ側よりもボトム側がAIPに近くなり,インテーク内部での減速が得られないためリップを回り込んだ流れ場は比較的速い速度でAIPに到達する.

第4 図 フライトインテーク内マッハ数コンター図 Fig. 4 Mach number contours in flight intake
第4図 フライトインテーク内マッハ数コンター図
Fig. 4 Mach number contours in flight intake

第5図にフライト形態のノミナルインテークとショートインテークが上流空気を吸い込む様子を流線で比較した結果を示す.
インテークリップ径よりも広い上流領域の流体が吸い込まれる様子が分かる.

吸い込まれる領域の外周にある流線は一度インテーク入口より後方に回り込んでからインテークの外部形状に沿って上流側に逆流した後,再度軸方向に流れを変えるので,第4図のマッハ数コンター図で示されたようにインテークリップ先端では局所的に流れ方向と流速が大きく変化する現象が発生する.
加速領域はリップ壁面の極近傍に存在するが,下流ではAIPまでの間にあるディフューザ部で緩やかに減速する.

ショートインテークでも外部空気が後方から回り込む同様の現象が観測されるが,第1図で示すようにインテークリップが若干鈍頭になっていることから,リップ先端での局所的な回り込みが強くなることとリップ周辺での急加速領域が大きくなることが観察できる.
リップ先端の軸方向位置を両者で同じにして比較すると,外部空気が後方から回り込む流線の範囲はノミナルインテークのAIP位置と同様で,中央付近の流線もほぼ同じになる.
このことから,リップ近傍で起きるマッハ数分布の違いはインテーク長によらずリップ先端からインテーク内の流路形状の違いによって起きていることが分かる.

第5 図 流線およびマッハ数分布図( 上:ノミナルインテーク, 下:ショートインテーク) Fig. 5 Streamlines and Mach number contours ( Up : Nominal intake, Down : Short intake )
第5図 流線およびマッハ数分布図( 上:ノミナルインテーク,
下:ショートインテーク)
Fig. 5 Streamlines and Mach number contours ( Up : Nominal intake,
Down : Short intake )

3.3 実験とCFDの比較

3.3.1 ベルマウス形態の壁面静圧

小型回転ファン実験の壁面静圧計測とCFD解析を比較した.

t66

第6図にベルマウス形態の内壁静圧係数Cp 分布を示す.同図から分かるように,インテークリップからの急加速により減圧された流れ場はスロート近傍で最も静圧が低くなり,スロート部直後で急減速した後にノーズコーン先端(ST6近傍)から再度ノーズコーンの存在により流速が徐々に加速することでダクト内の静圧が下がる様子が確認できる.
実験データとCFD解析結果に良好な一致が得られており,小型回転ファン装置とファン動翼なしのCFD解析結果の両者で静圧分布が良好に一致する.
したがって,本実験形態のチップ周速(ファンブレード先端の周速)が亜音速となるファン作動条件においては,ファン動翼が上流側の流れ場に与える影響は少なく,ファン動翼を模擬しないダクト単体でのCFD解析でインテークの流れ場を予測できているといえる.

ここで,実験データではスロート位置( ST4 )と直後の計測点( ST5 )では静圧レベルはほぼ同じであるが,ST6では静圧が上昇し,その後AIPに向かってゆっくりと静圧が低下している.
スロート部を境に流れが加速流から減速流に変化することで層流境界層が剥離し,その結果,ST4とST5の間で静圧がほぼ一定となる.
一方,剥離直後に境界層が乱流遷移して再付着し,剥離泡を形成することで,ST6において圧力回復が生じるという特徴が見られる ( 10 ).

第6 図 ベルマウス形態の内壁静圧係数Cp 分布 Fig. 6 Inner-wall static pressure coefficient for bellmouth
第6図 ベルマウス形態の内壁静圧係数Cp 分布
Fig. 6 Inner-wall static pressure coefficient for bellmouth

3.3.2 フライトナセル形態の壁面静圧

インテーク内部の流れ場を検証するために,第7図にノミナルインテークの内壁面のCp分布データの実験結果とCFD解析結果の比較を示す.図中,横軸のX/Dfanは,各周方向位置でのリップ先端( ST1 )を基準としてファンケース直径で無次元化した軸方向距離である.
第4図のマッハ数コンター図で見られるように,リップ先端での急加速によって上流側で静圧が局所的に低くなり,ファン動翼入口に向かって静圧が緩やかに上昇する特性が得られた.周方向45°位置と315°位置のリップ先端のST1位置で実験結果に比べてCFD解析結果はCpが高いことの違いはあるが,その他の周方向位置では実験で得られたCp分布を良好に予測できている.
第7図のスロート位置( ST4 )からAIPまでの範囲( ST7 )ではCFD結果と実験データは一致しており,CFD解析で見られるようにインテーク内壁面で大きな境界層剥離や逆流は実験でも発生していないといえる.

第7 図 軸方向の静圧係数Cp 分布( ノミナルインテーク) Fig. 7 Axial distribution of static pressure coefficient ( nominal intake )
第7図 軸方向の静圧係数Cp 分布(ノミナルインテーク)
Fig. 7 Axial distribution of static pressure coefficient ( nominal intake )
第8 図 軸方向の静圧係数Cp 分布( ショートインテーク) Fig. 8 Axial distribution of static pressure coefficient ( short intake )
第8図 軸方向の静圧係数Cp 分布( ショートインテーク)
Fig. 8 Axial distribution of static pressure coefficient ( short intake )

第8図にショートインテークのCp分布を実験データとCFDを比較した結果を示す.
ショートインテークでも,ノミナルインテークと同様にリップ先端付近( ST1 ~ ST3 )での局所的な静圧低下領域が実験データから観測される.
CFD結果について静圧の最小値はノミナルインテークに比べて若干低くなっており,リップを回り込む流れはリップ先端からスロート位置までの距離が短くなって加速の程度が大きくなっている.
さらに,静圧が最小値となる箇所からAIP位置の静圧レベルまで急上昇する分布を持つことが分かる.

周方向で見た場合,ボトム側(周方向90 ~ 270°の範囲)ではほぼ同じCp分布を持つが,トップ側(45 ~ 315°の範囲)では静圧の最小値となる軸方向位置がリップ先端側ST1に移動している.
ショートインテークのCp分布をCFD解析結果と比較すると,ボトム側では実験データの分布を良好に予測することが確認できた.

一方,トップ側のCFD解析結果はボトム側に比べて静圧が低くなる軸方向範囲が狭くなるものの,全周位置でリップ先端から少し下流位置のST2付近に静圧の局所的ピークを持つ傾向は変わらない.
CFD解析結果は実験値とおおむね一致しているが,0°位置で見られる軸方向の単調増加傾向とは異なることに加え,AIP位置( ST7 )での静圧レベルにも違いがあることが分かった.

CFD解析と実験データの違いの要因を詳細に把握するために,第9図に同位置での乱流運動エネルギー( k )分布の比較を示す.
ノミナルインテークはリップ先端でkが急激に増加するが,リップ先端からスロート位置間で流れの回り込みによりkの分布がリップ壁面から広がりながら移動する.
スロート部で壁面近傍の流速が加速から減速に変化する箇所でもkが上昇するので,リップ先端で生成されたkに覆われた状態でkの生成が生じる.
その下流位置ではリップ先端で生成されたkとスロートで生成されたkとが層状になってAIPまでの間で幅を広げながら壁面近傍に分布する.
ショートインテークでも,リップ先端で生成されたkが下流側へ拡散する様子と,スロート部でのkの生成が確認されており,ノミナルインテークと同様に広がったkに囲まれる形でスロート部のkが生成される現象が観察された.
ただし,ショートインテークではスロート下流でのkの分布はノミナルインテークに比べて大きくなっている.

このように,CFD解析ではリップ先端近傍における乱流運動エネルギーkの生成が強く評価されているため,下流側では乱流境界層が過度に発達し,境界層が剥離しにくい流れ場が形成されていると考えられる.

一方,実験ではリップ先端での乱れの発生およびkの生成量はCFD解析よりも小さい可能性があり,その結果,下流の乱流境界層の発達が遅れ,CFD解析結果との間に差異が生じたものと推測される.
すなわち,CFD解析はkを過大評価しているため,実験とは異なる流れ場を再現している可能性がある.

第9 図 トップ側乱流運動エネルギー分布 Fig. 9 Distribution of turbulent kinetic energy on the top side
第9図 トップ側乱流運動エネルギー分布
Fig. 9 Distribution of turbulent kinetic energy on the top side

4. 横風による影響

4.1 横風実験

第10図に横風実験の概要を示す.第2図の小型回転ファン装置を使用したインテークを風洞内中央の架台に固定し,ファンの排気流れは風洞出口方向に排気される.
第10図のように横風を作り出す送風機はファンの軸方向と垂直となる横方向に設置されており,第2図に示された吹出しノズルから横風が発生する.
送風機と吹出しノズル間の流路内には整流金網とセルサイズ6 mmのハニカムが整流化のため設けられている.
本稿での横風流速Uは,インテーク中心位置( X/Dfan = 0,R/Dfan = 0 )での流速がU = 2.0 m/sとなるよう送風機が調整されている.
第10図に示すようにインテーク内の全圧分布計測は半径方向に9 点の同時計測ができる櫛(くし)形全圧管で実施した.

第10 図 横風実験の概要 Fig. 10 Overview of the crosswind experiment
第10図 横風実験の概要
Fig. 10 Overview of the crosswind experiment

櫛型全圧管を周方向1 か所に設置して,全圧管の周方向設置位置を変更することで繰り返し計測を行い,ファン前方のディストーション分布を取得した.
周方向には0 ~ 240°の範囲で15°の等間隔に配置できる.
全圧管に加わった圧力はウレタンチューブを通して多点圧力スキャナにより10s以上の時系列データを取得し,平均化処理をしている.
なお第10図のようにファン中心部のノーズコーンは外側のケーシングとストラットにより固定されている.

4.2 横風によるディストーション分布

第11図に横風による全圧分布(実験およびCFD結果 ( 13 ))を示す.
同図は,ノミナルインテーク形態のAIPから0.35Dfanだけ上流位置で計測された全圧Ptの分布を,( 2 ) 式で表される大気全圧Pt 0で無次元化した全圧損失係数σに変換し,コンター図で示したものである.

t66-3
第11 図 横風による全圧分布( 実験およびCFD 結果) Fig. 11 Total pressure distribution
第11図 横風による全圧分布( 実験およびCFD 結果)
Fig. 11 Total pressure distribution

第11図のθ = 90°が横風の上流側であり,θ = 0 ~240°が計測対象範囲のため,実験結果はこの範囲が示されている一方で,CFD結果は全周で示している.横風流速U = 2.0 m/sを一定とし,小型回転ファンの回転数を変えることでインテークの吸い込み流量mが変化する.
横風流速Uが一定の条件で,流量mが大きい場合( m = 0.75 kg/s )は,横風流速Uに対する吸い込み速度が大きいために,境界層剥離による全圧損失は見られない.
対して,流量が少ない場合( m = 0.46 kg/s,m = 0.35 kg/s )は横風流速が吸い込み速度に対して強いため,インテークリップからの剥離による全圧損失が見られる.

この横風による境界層剥離の様子を調べるため,インテーク内壁の静圧計測結果をまとめた.
第12図に横風実験の軸方向の静圧係数Cp分布(θ = 90°位置)を示す.
流量m = 0.75 kg/sでは横風のない実験結果の第7図に近いCp分布となっているのに対して,流量が少ないm = 0.46 kg/sやm = 0.35 kg/sではCp分布が軸方向に一定となっており,境界層剥離が発生していることが分かる.
この軸方向のCp分布から,インテークリップ部にて発生した剥離によるディストーションがファン動翼近傍まで影響しているといえる.
また,この剥離によるディストーション発生位置が横風上流のボトム側(θ = 130°近傍)になる要因は,インテークのドループ角による上下非軸対称性の影響と考えられる.
ドループ角があるインテークでは,インテーク内のボトム側領域の吸気流速が高くなることが示されている ( 11 ).
そのため,インテークのボトム側領域では,流れが加速しやすく,境界層剥離を誘起したと考えられる.

4.3 横風によるディストーション指数

t66

横風流速U = 2.0 m/sにおける全圧分布を表した第11図に対応したディストーション指数DC60を第13図に示す.
実験の全圧計測は0 ~ 240°の範囲のため,流路断面は0 ~ 240°としており,CFD解析でも同じ範囲で評価した.
流量に対するディストーション指数の関係は,実験とCFD解析結果で傾向は一致しているが,CFD結果はディストーション指数を大きく予測し,課題も見られる.
インテークの実験データを用いてCFD解析のインレットディストーション予測の検証例 ( 12 )はあるものの,横風によるディストーションについては,境界層剥離を伴う事象やファン流量が変化する際の非線形なヒステリシス ( 14 )も生じて把握が難しい現象のため,現在も研究がされている ( 5 ) ~ ( 7 ).
本研究からも実験計測技術およびCFD技術の両面からの予測精度向上が今後の課題であることが確認できた.

第13 図 横風によって生じる全圧ディストーション指数 Fig. 13 Total pressure distortion index under crosswind conditions
第13図 横風によって生じる全圧ディストーション指数
Fig. 13 Total pressure distortion index under crosswind conditions

4.4 横風条件下のグランドボルテックスによるディストーションCFD

グランドボルテックスは,エンジンナセルのインテーク開口部と地表面との間で形成される流体の渦構造である.
特に横風条件下では,この渦が強く発達し,インレットディストーションを生じさせる原因となる.
横風条件下のグランドボルテックスによるディストーションを評価するため,CFD解析 ( 13 )を行った.
地表面によるグランドボルテックスのインテーク部への影響を評価するため,横風条件Uと流量mは4.2節での設定と同じとした.

第14図にノミナルインテーク形態を対象に第11図 - ( b )と同じように無次元化した全圧分布のCFD結果と,渦の可視化のためヘリシティで色づけしたQ値の等値面図を示す.
いずれの流量条件でもグランドボルテックスと境界層剥離によるディストーションが見られる.
また,グランドボルテックスにより発生するディストーションはファン流量が上昇するごとに,横風上流側(θ = 90°方向)に移動し,さらにそのディストーションが強くなっていくことが分かる.
グランドボルテックスの移動に伴い,境界層剥離の領域が小さくなる傾向も分かった.

第14 図 グランドボルテックスを伴う全圧分布 Fig. 14 Total pressure distribution associated with ground vortex
第14図 グランドボルテックスを伴う全圧分布
Fig. 14 Total pressure distribution associated with ground vortex

横風流速U = 2.0 m/sにおけるCFD解析結果である第14図に対応したディストーション指数DC60を第15図に示す.
いずれの流量条件でも,地表面を設けることにより,ディストーションが強くなることが分かる.
特に流量が大きいとその差が顕著になる.

第14図 - ( a )と第11図 - ( b )を比較すると,地表面を設置した場合,境界層剥離に起因するディストーションが,地表面なしの場合と比較して,より大きな流量域まで発生することが確認された.
これは,グランドボルテックスの発達および地表面の存在によりナセル下方からの吸い込みが制限され,その分,横風側上流からの吸気割合が増加してインテークリップへの流入インシデンス(流れ角度)が大きくなり,境界層剥離の領域が拡大されたためと考えられる.

第15 図 グランドボルテックスの有無に対する全圧ディストー ション指数 Fig. 15 Total pressure distribution index with/without ground vortex
第15図 グランドボルテックスの有無に対する全圧ディストー
ション指数
Fig. 15 Total pressure distribution index with/without ground vortex

5. 結言

将来的には,さらなる高バイパス比化によるファン径およびナセル径の大型化によるナセル抗力と重量の増加という技術課題へ対応するため,ショートインテークの適用が想定されている.
そのため,横風時や離着陸時に今まで以上のインレットディストーションが流入する可能性が高く,ファンや圧縮機への空力・エアロメカ・騒音 ( 15 )の影響が大きくなる可能性がある.

本研究を通じて模型実験を用いたショートインテーク流れやインレットディストーションの空力データ取得とCFD解析の精度検証ができた.
さらに,地表面効果であるグランドボルテックスの挙動をCFD解析することができるまでの技術力向上を図ることができた.
今後は,インテークからのディストーションを抑える技術に取り組むとともに,ショートインテークを想定したディストーションを考慮したファン・圧縮機についても研究を進めていく ( 16 ).

― 謝  辞 ―
研究の実施に当たり,共同研究先の国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構( JAXA )航空技術部門 航空環境適合イノベーションハブ,ならびに東京理科大学 工学部 機械工学科 山本研究室(現 早稲田大学 創造理工学部),および石川研究室の関係者の皆さまには多大なるご協力を賜り,ここに深く謝意を表します.

参考文献

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(11) A. Yeung et al.:Quasi 3D nacelle design to simulate crosswind flows: Merits and challenges,International Journal of Turbomachinery,Propulsion and Power,Vol. 4,No. 3,( 2019 )

(12) J. Murphy:Intake Ground Vortex Aerodynamics,PhD thesis, Cranfield University,( 2008 )

(13) R. Kokubo et al.:Numerical Study on Distortion at the Nacelle Inlet Under Crosswind,AIAA SCITECH 2026 Forum,AIAA 2026-2882,( 2026 )

(14) C. A. Hall and T. P. Hynes:Measurements of Intake Separation Hysteresis in a Model Fan and Nacelle Rig,Journal of Propulsion and Power,Vol. 22,No. 4,( 2006 )

(15) 成勢弘城ほか:航空機用エンジンのインテーク空力性能に横風による入り口乱れがおよぼす影響,日本機械学会論文集,Vol. 88,No. 910,2022 年