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セラミックス基複合材料の静的引張時の材料挙動予測

  春山大地

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春山 大地 技術開発本部技術基盤センター材料・構造技術部 博士(工学)

 航空機の燃費向上には,高温・高強度セラミックス基複合材料( CMC )のエンジン部品への適用が必要であり,材料特性の向上とともに構造強度の高精度予測,破壊メカニズムの理解が重要である.本研究では,一方向CMCの繊維方向における静的引張荷重時の損傷モデルを構築し,一方向CMCの材料挙動を精度良く予測することを目的とした.構築したマトリックスき裂成長モデルおよび繊維破断モデルを用いることで,試験で得られた応力-ひずみ関係,およびき裂密度-応力関係を高い精度で予測することが可能となった.

Improving aircraft fuel efficiency requires the application of high-temperature and high-strength ceramic matrix composites (CMCs) to engine components, necessitating enhanced material properties, highly accurate structural strength predictions, and a thorough understanding of fracture mechanisms. In this study, damage models under static tensile loading in the fiber direction of unidirectional CMCs were constructed to enable precise prediction of the material behavior of unidirectional CMCs. By employing both a matrix crack growth and a fiber breakage model, it is possible to accurately predict the stress-strain relationship and the crack density-stress relationship obtained in experiments.


1. 緒言

 近年,航空機分野において,持続可能な社会の実現のため,環境負荷を低減させる要求が高まってきている.環境負荷低減に向けた取組みの一つとして,燃費改善に向けた技術開発が行われている.燃費改善を実現するための方法として,タービン入口温度の高温化や航空機の軽量化が挙げられる.これらの燃費改善の方法に貢献できる技術として,エンジン部品へのセラミックス基複合材料( Ceramic Matrix Composite:CMC )の適用が挙げられる.現在までにさまざまなエンジン部品への適用を目指した研究開発が進んでおり,さらなる燃費向上のために,より高温な環境下で適用可能で高強度なCMCの開発が必要である.そのためには,材料の特性改善や強度の正確な予測が必要となる.材料特性を改善するためには,単体の材料特性を向上させる以外に,素材の適切な組合せが重要であり,正確な強度予測には破壊現象を十分に理解する必要がある.よって,CMCの繊維,界面層,マトリックスといった素材の破壊現象をモデル化することで,複合材料の挙動を適切に予測することが重要である.ここで,一方向CMCの微視的損傷を第1図に示す.一方向CMCは繊維方向に負荷を加えたときに,マトリックスき裂が発生するが,CMC全体がぜい性的に破壊しないために,マトリックスき裂が繊維に進展せず,繊維とマトリックスの界面にき裂が偏向し,界面がはく離するように設計されている.さらに負荷を加えると,マトリックスき裂が複数箇所で発生し,繊維とマトリックス間の界面はく離領域が増え,やがてマトリックスき裂は発生しなくなる.また繊維は,強度的に弱い箇所から局所的に破壊し,繊維全体が負荷に耐えられなくなったときに破断する.これらの微視的損傷が成長することで,力学特性が変化する.

第1 図 一方向CMC の損傷の様子 Fig. 1 Schematic of damages in unidirectional CMCs
第1図 一方向CMC の損傷の様子
Fig. 1 Schematic of damages in unidirectional CMCs

 そこで本研究では,一方向CMCの繊維方向への静的引張時の損傷モデルを構築し,一方向CMCの材料挙動(応力-ひずみ関係,き裂成長過程)を精度良く予測することを目的とした.構築した損傷モデルで計算を行い,計算結果と試験結果を比較することで損傷モデルの妥当性検証を行った.

2. ランダムなマトリックスき裂成長モデル

2.1 マトリックスき裂発生によるエネルギー解放率

 マトリックスき裂成長を模擬するために必要なマトリックスき裂発生によるエネルギー解放率を示す.第2図に既存のマトリックスき裂間に発生する新たなマトリックスき裂を示す.新たなマトリックスき裂が発生したときのエネルギー解放率 は( 2-1 ) ~ ( 2-6 ) 式となる ( 1 ).

第2 図 既存のマトリックスき裂間に発生する新たなマトリック      スき裂 Fig. 2 New matrix crack initiation between pre-existing matrix cracks
第2図 既存のマトリックスき裂間に発生する新たなマトリックスき裂
Fig. 2 New matrix crack initiation between pre-existing matrix cracks
2-1-8
2-9,10

 ここで,esは基準エネルギー解放率,σ1は引張応力,σthは熱残留応力,σdebは界面はく離応力,x1+とx1−は隣接き裂からの距離,δは界面はく離長さ,rfは繊維半径,τは界面摩擦応力,Vfは一方向複合材料の繊維含有率,Vmは一方向複合材料のマトリックス含有率,Efは繊維の縦弾性係数,Emはマトリックスの縦弾性係数,E1は一方向複合材料の繊維方向の縦弾性係数,αfは繊維の熱膨張係数,αmはマトリックスの熱膨張係数,Tは温度,T0は熱残留応力が0のときの温度,Γdは界面はく離の臨界エネルギー解放率である.上付き文字I ~ VIはマトリックスき裂の相対位置および界面はく離領域のオーバーラップによる場合分けを示している ( 2 ).ケースI ~ VはZokとSpearing ( 2 )の式に新たに熱残留応力σthと界面はく離応力σdebの影響として第2項目を追加した式であり,ケースVIはZokとSpearingの式と一致した.

2.2 モンテカルロ法を用いたマトリックスき裂成長計算

 2. 1節で定式化したマトリックスき裂成長モデルとモンテカルロ法を用いて,マトリックスき裂がマトリックス内の局所的な破壊エネルギー(臨界エネルギー解放率)によって発生するという仮定のもと,欠陥のばらつきを考慮した計算モデルを構築し,応力-ひずみ関係とき裂密度を計算した.計算モデルを第3図に示す.繊維方向に長さLを有する計算領域を考え,発生するき裂は計算領域を貫通するものとした.この計算領域を繊維方向にN 個に分割し,各位置の要素のサイズをΔl = L/Nとした.また位置iにおいて,隣接き裂からの距離をx1+,x1−とし,界面はく離長さδとき裂の相対位置に応じて,( 2-1 ) ~ ( 2-6 ) 式を用いて,マトリックスき裂発生によるエネルギー解放率 を計算した.なお,( 2-2 ) ~ ( 2-6 ) 式は条件で得られた結果であるが,の場合では,x1+とx1-を入れ替えればよい.また,マトリックスき裂は( 2-11 ) 式を満たしたときに発生するものとした.

第3 図 計算モデル Fig. 3 Computational model
第3図 計算モデル
Fig. 3 Computational model
2-11

 ここで,Γ m( i )は位置iのマトリックスの破壊エネルギーであり,欠陥の分布に依存すると考えられる.ここで,マトリックスの破壊エネルギーのばらつきをワイブル分布に基づき与えた.具体的には,( 2-12 ) 式のワイブル分布Riを用い,逆関数法によって一様分布に従う乱数からワイブル分布の乱数を生成し,各位置の破壊エネルギーΓm( i )を算出した.

2-12-16
2-17-23

2.3 計算に用いるパラメータ

 計算モデルの妥当性を確認するために,炭化けい素( SiC )繊維とCAS ( Calcium Alumino-Silicate )マトリックスで構成された一方向CMC積層板[0]12の試験結果 ( 3 ),( 4 )を用いた.計算モデルはL = 10 mm,N = 10,000,最大応力σ1max = 400 MPaとした.材料パラメータを第1表に示す.参照厚さbrは試験片の厚さとした.本計算モデルでは,他にマトリックスの破壊エネルギーに関するパラメータΓmsとΓmg,界面はく離エネルギーΓd,界面せん断応力τといった材料パラメータの値が必要となる.

table1

 界面はく離エネルギーと界面せん断応力の具体的な値を第2表に示す.さまざまな計測方法が提案されているが,計測方法によって大きく異なる.そこで各パラメータの値を決定するため,界面はく離エネルギーΓdの値を変えて,応力-ひずみ関係とき裂密度-応力関係の計算結果と試験結果が一致するときの界面せん断応力τ,マトリックスの破壊エネルギーに関するパラメータΓmsとΓmgを算出し,パラメータの範囲を絞り込んだ.界面はく離エネルギーの最小値については,繊維束( fiber bundle ) push-out試験では約0.0 J/m2 ( 5 ),( 6 )としているが,明確な値を示していない.一方で,Heらは非弾性ひずみを検討する際に,界面はく離エネルギーとして0.1 J/m2 ( 7 )を用いている.界面はく離エネルギーが0.0 J/m2であると考えにくいため,本研究でも同様に0.1 J/m2を計算に用いた.また,界面はく離エネルギーについては,調査した中で最大値を示したhysteresis analysisによる方法の値( 0.8 J/m2 ) ( 6 ),( 8 )も計算に用いた.

table2

2.4 計算結果

 第3表に試験 ( 3 )の応力-ひずみ関係とき裂密度-応力関係によく一致するように調整したパラメータを示す.初めにモンテカルロシミュレーションによって,ランダムなマトリックスき裂成長を表現できているか確認した.第4図に青色実線の繊維の軸方向ひずみ分布,橙(だいだい)色実線のマトリックスのエネルギー解放率,黒色点群の破壊エネルギーVmΓmの分布を示す.ある位置の破壊エネルギーよりもマトリックスのエネルギー解放率が大きくなることでき裂が発生し,マトリックスのエネルギー解放率が低下し,繊維にひずみ分布が発生したことが確認された.このき裂発生によるマトリックスのエネルギー解放率と繊維ひずみの再分配,応力増加が繰り返されることで,ランダムにき裂が成長していることが確認された.

第4 図 繊維ひずみ,マトリックスのエネルギー解放率,および 破壊エネルギー分布 Fig. 4 Distribution of fiber strain, energy release rate of matrix, and fracture energy
第4図 繊維ひずみ,マトリックスのエネルギー解放率,および
破壊エネルギー分布
Fig. 4 Distribution of fiber strain, energy release rate of matrix, and
fracture energy

 次に,モンテカルロシミュレーションを3 回実施して得られた応力-ひずみ関係を第5図に,き裂密度-応力関係を第6図に示す.応力-ひずみ関係はほぼばらつきは確認されず,き裂密度は試験結果と同程度のばらつきが発生した.よってパラメータを検討するうえで,破壊エネルギーのばらつきは大きな問題にならないことが明らかとなった.また,ケース 1,2の応力-ひずみ関係は初期の擬延性領域まで計算結果と試験結果がよく一致し,き裂密度-応力関係はき裂の発生から飽和するまでの過程全体で計算結果と試験結果がよく一致した.しかし,き裂が飽和した後は応力-ひずみ関係が一致しなかった.マトリックスが荷重を負担せず,繊維が健全な場合を仮定すると,Vf Ef = 64.6 GPaとなり,試験の接線弾性係数の約45 GPaと大きく異なった.これは繊維破断を考慮していないためと考えられる.繊維破断は4章にて説明する.

fig5 6

 また,本計算によって,界面はく離エネルギーΓd,界面せん断応力τ,尺度パラメータΓms,形状パラメータΓmgの範囲を狭めたが,今後計算を進めるに当たり,各パラメータの値を決定する必要がある.ここで,あらためて第5図の応力-ひずみ関係と第6図のき裂密度-応力関係の詳細を確認した.マトリックスき裂成長が確認される応力200 MPa近傍はマトリックスき裂に起因する繊維破断による応力低下が計算結果に反映されるため,繊維破断の影響がほとんどない,マトリックスき裂が発生し始めた応力150 MPa近傍の計算結果と試験結果を確認した.第5図の応力-ひずみ関係においては,ケース 1,2で明確な差が確認されなかったが,第6図のき裂密度-応力関係においては,ケース 1の方が計算結果と試験結果がよく一致した.ケース 2の場合は,パラメータ調整によってマトリックスき裂の発生応力の計算結果と試験結果を一致させることができず,計算結果の方が試験結果よりも大きくなった.この理由として,界面はく離エネルギーが大きい点が挙げられる.マトリックスき裂と界面はく離が発生するとき,荷重負荷によって与えたエネルギーが界面はく離に消費されるため,マトリックスき裂の発生に割り当てられるエネルギーが小さくなる.これによって,計算で得られるマトリックスき裂の発生応力が高くなったと考えられる.以上の考察から,これ以降の計算ではケース 1のパラメータを用いることとした.

3. 周期的なマトリックスき裂成長モデル

3.1 計算モデル

 2章ではランダムなマトリックスき裂成長モデルを用いることで,マトリックスき裂が飽和する応力200 MPa程度までの応力-ひずみ関係,き裂密度-応力関係を表現することが可能になった.しかし,織物複合材や部品で発生するような広範囲での破壊現象を把握するためには,計算コストの観点から,局所的な影響を考慮したランダムな材料挙動を平均的な材料挙動に置き換えたモデルが必要である.そこで,欠陥のばらつきを考慮した周期的なマトリックスき裂成長モデルを定式化し,モンテカルロシミュレーションで得られた応力-ひずみ関係とき裂密度-応力関係と同等の計算結果が得られるか検討した.

 初めに,周期的なマトリックスき裂成長モデルとして,第2図において,き裂間の中央に新たなき裂が発生するものと仮定した.この場合のマトリックスき裂によるエネルギー解放率は,界面はく離長さδとき裂間隔によって変化し,2. 1節で示した( 2-1 ),( 2-4 ),( 2-6 ) 式をとした式となる.ここで,上記の平均き裂間隔は,き裂を周期的と仮定しているため,モンテカルロシミュレーションで得られた結果と差異が発生する.そこで差異の解消方法として,平均き裂間隔 に補正係数を与え,き裂のばらつきを考慮した平均き裂間隔を代入することとした.

3-1-5

 補正係数Λは理論的な一次元空間ランダム充填問題から求めた値である1.337 ( 13 ),( 14 )を用いた.

 次にき裂が成長する条件として,( 3-5 ) 式を用いた.

3-5

 ここで,ΓmRはマトリックスの破壊エネルギーである.モンテカルロシミュレーションで得られた破壊エネルギーとき裂密度の関係とフィッティングカーブを第7図に示す.き裂成長過程で破壊エネルギーが増加することから,マトリックスの破壊エネルギーΓmRは,ばらつきを考慮したき裂密度の関数として( 3-6 ) 式が成り立つものとした.

第7 図 モンテカルロ法によって計算された破壊エネルギーとき 裂密度に対するフィッティングカーブ Fig. 7 Fitting curve for fracture
第7図 モンテカルロ法によって計算された破壊エネルギーとき
裂密度に対するフィッティングカーブ
Fig. 7 Fitting curve for fracture energy vs. crack density calculated by Monte Carlo method
3-6

 ここで,Γm0は初期破壊エネルギー,Γmmaxは最大破壊エネルギー,ρ0は特性き裂密度,αは欠陥のばらつきに関する係数である.第3表のケース 1のモンテカルロシミュレーションを3 回実施して得られたき裂密度-破壊エネルギー関係を用い,Γm0= 6 J/m2 ( 3 )の制約条件のもと,最小二乗法により各パラメータを求めた.フィッティングカーブのパラメータはΓmmax= 37.1 J/m2,ρ0 = 4.38 mm−1,a = 0.763である.また,各応力σ1に対して,( 3-5 ) 式の等号が成立したときのばらつきを考慮したき裂密度を数値的に計算した.この際,き裂密度は周期的であることを利用し,( 3-7 ) 式に示すき裂間隔とき裂密度の関係を用いた.

3-7-10

3.2 計算結果

 モンテカルロ法によるランダムなマトリックスき裂成長計算結果と欠陥のばらつきを考慮した周期的なマトリックスき裂成長モデルの計算結果を比較した.第8図に応力-ひずみ関係,第9図にき裂密度-応力関係を示す.Λ = 1はマトリックスき裂のばらつきの影響を考慮しない場合,Λ = 1.337はマトリックスき裂のばらつきの影響を考慮した場合である.補正係数Λ = 1.337を与えることで,ランダムなマトリックスき裂成長計算結果と周期的なマトリックスき裂成長計算結果がよく一致した.

第8 図 モンテカルロ法と周期的なマトリックスき裂成長モデル によって計算された応力-ひずみ線図 Fig. 8 Stress-strain curves calculated by Monte Carlo method and periodic matrix crack growth model
第8図 モンテカルロ法と周期的なマトリックスき裂成長モデルによって計算された応力-ひずみ線図
Fig. 8 Stress-strain curves calculated by Monte Carlo method and periodic matrix crack growth model
第9 図 モンテカルロ法と周期的なマトリックスき裂成長モデル によって計算されたき裂密度-応力線図 Fig. 9 Crack density-stress curves calculated by Monte Carlo method and periodic matrix crack growth model
第9図 モンテカルロ法と周期的なマトリックスき裂成長モデルによって計算されたき裂密度-応力線図
Fig. 9 Crack density-stress curves calculated by Monte Carlo method and periodic matrix crack growth model

4. 繊維破断モデル

4.1 計算モデル

 セラミック繊維のようなぜい性材料は,材料の微視的欠陥の寸法,形状,分布によって強度が決定されるため,個々の繊維強度は確率的なばらつきを有する.そこで,ワイブル分布に基づく確率論的な繊維破断モデルを採用した.具体的な繊維破断確率Pfは( 4-1 ) 式のとおりである ( 1 ),( 15 ).

4-1

 ここで,Sは繊維応力,lsは繊維応力の回復長さ,σcは特徴応力,mfはワイブル尺度係数,x0は繊維破断による繊維の応力変化範囲である.また,複合材料の強度を求める場合,破断した繊維が支えていた荷重が破断していない繊維にどのように分担されるか見積もることが重要となる.そこで,ある繊維が破断した後,残りの繊維全体で荷重を均等に負担するというGlobal Load Sharing ( GLS )モデルを採用した.具体的な式は( 4-2 ) ~ ( 4-4 ) 式のとおりである ( 15 ).

4-2-4

 ここで,FRはGLSモデルの範囲2l s内の繊維破断確率,Pdiniは初期損傷による繊維破断確率,Ppはマトリックスき裂が繊維に進展する確率,δcは特徴長さ,fdはδc当たりの初期損傷数である.GLSモデルにおけるマトリックスき裂と繊維破断を第10図に示す.繊維の損傷を初期損傷,マトリックスき裂に伴う繊維破断,荷重負荷による繊維破断に分割した.( 4-2 ) 式の非線形方程式を数値的に解くことで繊維応力Sが得られ,繊維応力と引張応力のつり合いが取れなくなるとき,つまりσ1が最大値になったときが複合材料の最終破断強度となる.

第10 図 GLS モデルにおけるマトリックスき裂と繊維破断 Fig. 10 Matrix crack and fiber breakage in GLS model
第10図 GLS モデルにおけるマトリックスき裂と繊維破断
Fig. 10 Matrix crack and fiber breakage in GLS model

 さらに,GLSモデルは,ひずみを過大評価する点から,局所的な繊維破壊の効果を考慮したLocal Load Sharing ( LLS )モデルを採用した計算も行った.なお,今回採用したLLSモデルは,GLSモデルから求められる破断強度を活用できる方法を採用した.繊維束の破断確率Hnf Lzは( 4-5 ),( 4-6 ) 式のとおりである ( 15 ).

4-5-6

 は繊維束応力,Φは局所的な影響を考慮した繊維束強度の平均,局所的な影響を考慮した標準偏差とするガウス分布の累積分布関数,n′は評価対象内の最終破断を決定する最小領域の割合,μはGLSモデルで求めた複合材料の最終破断強度,Δnlは臨界繊維本数nlに対する強度補正 ( 16 ),( 17 )である.この式から,のときの破断強度を求めた.

 最後に,繊維破断によるひずみ増分Δは( 4-7 ) 式,( 4-8 ) 式で表される.

 このひずみ増分を3. 1節で示した( 3-9 ),( 3-10 ) 式のひずみに加える.よって,応力とひずみの関係は( 4-9 ),( 4-10 ) 式のとおりである.

4.2 計算に用いるパラメータ

 計算に用いるパラメータを第1表および第4表に示す.繊維破断に関する材料パラメータはSiC/CAS複合材料の引張試験のFracture mirror観察から求めたものを使用した ( 18 ).これは初期損傷を含む強度であることから,初期損傷数fdは0とした.また,マトリックスき裂から繊維へのき裂進展確率Ppは,Haruyamaら ( 1 )が示した方法を採用した.具体的には,Heら ( 19 )の異材料へのき裂進展とその界面へのき裂偏向の条件に関する弾性係数の比とエネルギー解放率の比の関係と,Push-out試験で取得した界面はく離応力のワイブル累積プロットから求めた.

Table4

 なお,SiC/CAS複合材料の界面はく離応力のワイブル累積プロットデータが文献にて確認できなかったため,代わりにニカロン ®繊維と化学気相含浸法( Chemical Vapor Infiltration:CVI )プロセスで作成したSiCマトリックスから成るSiC/SiC複合材料の結果を使用した ( 20 ).初めにHeらの結果から,マトリックスき裂が繊維に進展する条件は,

4-11-12

と求めた.さらに,( 2-10 ),( 4-11 ),( 4-12 ) 式より,マトリックスき裂が繊維に進展するときの界面はく離は,= 215.6 MPaと求められた.この値を( 4-13 ) 式の界面はく離応力のワイブル累積プロットに代入した.

4-13

パラメータγ = 0 MPa,md = 1.0081,σd 0 = 61.793 MPa ( 1 )から,= 0.94となった.界面はく離応力が高い場合,マトリックスき裂から界面へき裂偏向せずに繊維にき裂進展する.よって,ある界面はく離応力 以上でマトリックスき裂が繊維に進展すると考えると,累積確率1−マトリックスき裂が繊維に進展するときの確率Ppであると考えられる.よって,

4-14

と求められる.LLSモデル関するパラメータはHaruyamaらの文献を参照していただきたい ( 22 ).

4.3 計算結果

 計算と試験の応力-ひずみ関係を比較した結果を第11図に示す.この結果より,マトリックスき裂飽和後の計算と試験の接線弾性係数がよく一致した.GLSモデルでは,破断ひずみを過大評価しているが,LLSモデルによって,結果が改善された.また,過小評価になるものの,試験の破断強度をおおよそ予測できた.

第11 図 試験とGLS モデル,LLS モデルから得られた応力-ひ ずみ線図 Fig. 11 Stress-strain curves for experimental, GLS and LLS results
第11図 試験とGLS モデル,LLS モデルから得られた応力-ひずみ線図
Fig. 11 Stress-strain curves for experimental, GLS and LLS results

5. 結言

 エネルギー基準のマトリックスき裂成長モデルとモンテカルロ法を用いて,欠陥のばらつきを考慮したマトリックスき裂成長計算を行った.その結果,応力-ひずみ関係は初期の擬延性領域まで計算結果と試験結果がよく一致し,き裂密度-応力関係はき裂の発生から飽和するまでの過程全体で計算結果と試験結果がよく一致した.また,周期的なマトリックスき裂成長モデルを検討し,補正係数を加えることでモンテカルロ法によるランダムなマトリックスき裂成長計算結果と同等の結果が得られることを示した.さらに,繊維破断モデルとして,マトリックスき裂が繊維に進展する確率を考慮したGLSモデルおよびLLSモデルを用いた.その結果,LLSモデルによって,試験の破断ひずみをよく予測でき,過小評価になるものの,試験の破断強度をおおよそ予測できた.

 なお,本稿で説明した一方向CMCの静的引張モデルは直交積層CMCに拡張されている.モデルの詳細および検証方法はHaruyamaらの論文 ( 15 ),( 22 )を参照していただきたい.

― 謝  辞 ―
 本研究を進めるに当たり,東北大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻 岡部朋永教授および東北大学グリーン未来創造機構グリーンクロステック研究センター 川越吉晃准教授のご協力をいただきました.ここに記して謝意を表します.

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