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燃料アンモニア燃焼バーナー・ボイラの商用機実証
碧南火力発電所4号機でのアンモニア20%燃焼実証試験

株式会社IHI   

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IHIグループは,火力発電のカーボンニュートラル化として主に微粉炭焚きボイラやガスタービンへの燃料アンモニア導入を検討してきた.アンモニアは燃焼させても CO2を排出しないものの,燃焼性が悪くかつNOx排出懸念があることから,安定かつ低NOx燃焼させることを主眼に燃焼技術の開発を行ってきた.この技術開発の集大成として実施する碧南火力発電所4号機でのアンモニア20%燃焼実証試験について,このほど実証試験開始段階まできたことから,実証試験設備やその内容について紹介する.


はじめに

地球温暖化の抑制と持続可能な社会の実現に向け,電力業界のみならず,さまざまな業界において温室効果ガスの削減が世界的に強く求められている.日本では,政府が 2021年10月に第6次エネルギー基本計画を打ち出しており,そのなかで2050年までに温室効果ガスを実質的にゼロとするカーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言している.また,その過程として,2030年までに2013年度比で46%の温室効果ガスを削減することを目標として掲げている.資源エネルギー庁の「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」によると,2030年において再生可能エネルギー割合の増加だけでなく,水素・アンモニアの利用が明記されており,全発電量の1%相当を水素・アンモニアで賄う計画となっている.

IHIでは,2010年代半ばから燃焼させてもCO₂を排出しないアンモニアの燃料利用に着目し,アンモニア燃焼技術開発を行ってきた.その後,内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム ( SIP ) (2017~2018年度)において既存石炭火力発電用ボイラでアンモニア燃焼実現の可能性を調査研究した.これに続く国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ( NEDO ) 委託事業(2019~2020年度)(※ 1)により株式会社JERA碧南火力発電所(愛知県)(以下,碧南火力)でのアンモニア20%燃焼実証の実現性を詳細評価し,現在進行中の碧南アンモニア20%燃焼の実証研究の助成事業(2021~2024年度)(※2)を進めてきた.

本稿では,碧南火力4号機(以下,碧南4号機)でのアンモニア20%燃焼実証試験の設備改造内容や実証試験内容について紹介する.なお,実証試験後の結果評価については別報としたい.また,IHIではこのほか碧南火力でのアンモニア50%以上燃焼の実証事業(グリーンイノベーション基金事業案件)や,専焼バーナー開発なども行っているが,これらについても別報とする.

  • 1カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電技術推進事業/アンモニア混焼火力発電技術の先導研究/微粉炭焚ボイラにおけるマルチバーナー対応アンモニア混焼技術の研究開発
  • 2カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/アンモニア混焼火力発電技術研究開発・実証事業/実証研究/100 万 kW級石炭火力におけるアンモニア20%混焼の実証研究

アンモニア20%燃焼を実現させる設備

石炭燃焼ボイラでアンモニア燃焼を実現させるためには,ボイラ設備の一部改造とアンモニア供給設備の追加設置を行うことになる.これらについて,碧南4号機での20%燃焼実証試験用設備を例に紹介する.

まずボイラについては,既設のバーナーにアンモニアノズルを追加設置する改造を行うのみである.もちろんアンモニアを供給するための配管や弁の追加設置も必要となるが,アンモニア燃焼比率が20%程度であれば,ボイラ回りはバーナーを改造するだけでアンモニアによるCO₂の20%削減が可能となる.ただし,すべてのプラントでそうなるとは限らず,設備の状態や設備能力の裕度によってはバーナー以外の改造が必要になる場合もある.

IHIのアンモニアノズルを擁するバーナーは,アンモニア不使用時は既設と全く同じ石炭専焼運転が可能なものとなっている.これによりアンモニアの供給状態によらずボイラの能力を常に維持できるようにしている.碧南4号機はバーナーが48本あり,そのすべてにアンモニアノズルを設置している.これらバーナーに石炭を供給する石炭粉砕ミルは6台設置されており,通常ミル5台運転(1台予備)をしているが,すべてのミル運転パターンに対してアンモニア燃焼比率20%を確保できるようになっている.

このアンモニアバーナーの開発は,社内研究による小型燃焼試験炉での燃焼試験から始まった(IHI技報 Vol. 59 No. 4,2019「石炭火力発電における微粉炭・アンモニア混合燃焼技術の開発」参照).この試験結果と数値解析結果を基に,バーナー回りのどの位置からアンモニアを投入すべきかを検討し,加えて既設石炭バーナーの低NOx化検討から得られた知見を踏まえて大型燃焼試験炉での試験を開始した.この試験は未知の領域での試験であったため,結果の妥当性評価自体が難しく,試験回数を重ねることによりデータの正確性を検証する必要があった(SIP事業).こうして得られたデータと知見の蓄積を踏まえ,具体的な実機構造の検討およびその構造での燃焼試験を経てアンモニアバーナーの設計指針を確立した(2019~2020年度NEDO委託事業).これを適用して碧南4号機のアンモニアバーナーは設計されている(2021~2024年度NEDO助成事業).

アンモニアバーナー改造前後( 特許第7049773 号)

次に,アンモニア供給設備について紹介する.全体の構成としては,液体アンモニアを受け入れ,貯蔵し,気化器で気化してアンモニアガスとしてボイラへ供給する形となり,具体的には以下のような設備が設置されている.

  • 燃料アンモニア受入設備(ローディングアームなど)
  • 燃料アンモニアタンク
  • 燃料アンモニアBOG(タンクで気化したアンモニアガス)圧縮機
  • 除害設備
  • 燃料アンモニア払出ポンプ
  • 燃料アンモニア気化器
  • 燃料アンモニア気化器海水ポンプ
  • 燃料アンモニア過熱器
  • 上記各設備を接続する燃料アンモニア配管や弁類(液またはガス)

アンモニアは各種業界で広く使われているものであるため,液体/気体ともにハンドリングする技術は確立されている.そのため,個々の設備は従来技術の延長線上にあり,既存のアンモニア設備と大きく異なる点はないが,燃料としてアンモニアを受け入れ,払い出すことに特化した設備は例を見ない.なかでも,設備の大容量化および安全確保について特段の注意が払われたものとなっている.

バーナー開発ロードマップ

なお,碧南4号機では燃料アンモニアタンクはバッファタンクの役割となっているが,将来の商用化の際には燃料アンモニアタンクの大容量化がなされることになる.IHIグループでも大容量タンクについての関連技術の開発を行っている(IHI技報 Vol. 63 No. 1,2023「アンモニアタンク大型化の実現と試験法の確立」参照).

燃料アンモニアタンク

実機でのアンモニア20%燃焼実証試験

碧南火力のアンモニア20%燃焼実証試験の目的は以下のとおりである.

火力発電設備のCO₂排出量削減策としてアンモニアを燃料として利用することが提起され,これまで試験設備での燃焼試験や解析による検証,検討を行ってきたが,社会実装に向けては実機で実証し,技術を確立する必要がある.

このため,既設100万 kW級石炭火力(碧南4号機)において,ボイラ関係設備およびアンモニア供給設備の合理的な仕様を決定し,20%燃焼実証試験を行うことにより,運転条件などの特性を把握し実運用上の課題抽出・解決を図る.これにより社会実装に向けた火力発電におけるアンモニアの燃料としての利用技術を確立する.

これを実現するため,上述の設備を設置し実証試験の準備を行ってきた.実証試験の概要は次表のとおりである.

実証試験の概要

実証試験のなかでこれらを確認,評価し,その結果①アンモニア20%燃焼運転におけるプラント全体の各特性,制約条件などアンモニア燃焼技術の社会実装に向けた課題を抽出できていること,② ①を踏まえアンモニア20%燃焼技術が確立されること,を目標とする.

実証試験時の実施内容

今後の展開

今後は,本稿記載の碧南4号機でのアンモニア20%燃焼実証試験を実施し,結果を評価する(2024年4月10日にアンモニア20%燃焼定格負荷運転を達成した.その後各種試験を実施中).得られた結果を基に社会実装を進めるとともに,バーナーの開発ロードマップに基づき,アンモニア高比率燃焼バーナーやアンモニア専焼バーナーの開発,実証試験の準備など行う.これらの取り組みによって火力発電設備のカーボンニュートラル化とアンモニアバリューチェーン構築をより一層加速させていく.

IHIグループは発電分野や産業分野におけるカーボンニュートラル化の要請により,早い段階からアンモニア燃焼技術の開発に着手し継続的に取り組んできた.今後もさまざまなニーズに対応したソリューション提供を行っていくことで,国内外の各業界でのカーボンニュートラル化に貢献していく.