IHI統合報告書

副社長座談会 ありたい姿に向けて、
未来への責任を持った選択をします

  • 小林こばやし淳じゅん

    副社長執行役員

    グループ事業開発・営業担当

    プロジェクトマネジメント担当

  • 盛田もりた英夫ひでお

    副社長執行役員

    技術戦略室長

    グループ技術戦略担当

    グループ品質保証担当

    グループ生産拠点戦略担当

  • 佐藤さとう篤あつし

    副社長執行役員

    航空・宇宙・防衛事業領域長

    グループ経済安全保障担当

    グループ調達担当

IHIグループは、2040年に向けた「中長期の方向性」を公表しました。そこで示したのが、2040年のありたい姿「世界中の人々の安心・安全、豊かな暮らしを根幹から支える For Industry & National Security」という考え方です。トップメッセージでは、その背景や方向性が示されています。一方で、実際の経営では、限られた人財・設備・資金の中で、どこに資源を配分し、何を優先するかの判断が問われます。その判断は、単に目先の収益を見て決められるものではありません。今ある事業が生み出している価値をどう生かしながら、将来の成長にどうつなげていくのか。不確実な環境の中で、何を基準に判断しているのかを、3人の副社長に聞きました。

  • 長期で競争力を高め続ける投資の考え方

    将来の競争力につながる投資かどうかを、どのように判断していますか。

    盛田:IHIグループの事業は、始めてすぐに成果が見えるものばかりではありません。収益につながるまでに、かなり長い時間がかかります。
    そのため、短期目線で「続ける」「やめる」を決めてしまうと、本来は将来の競争力につながる取り組みまで止めてしまうことになります。
    私たちがまず見ているのは、その取り組みが将来の競争力や収益の柱につながるか、そして時間をかけてでも取り組む意味があるか、という点です。その上で、足元の収益や投資負担をどのように管理するかを判断しています。
    2040年という時間軸を置いたのも、遠い将来の理想を語るためではなく、IHIグループの事業を判断するのに必要な時間軸が、そもそも短期ではないからです。

    佐藤:航空エンジンは、その事業構造として分かりやすいと思います。
    新しいエンジンは、出荷した時点ですぐに利益が大きく出るわけではありません。整備、修理、スペアパーツの供給を通じて、長い時間をかけて収益が積み上がっていきます。実際に、10年以上前に市場投入されたエンジンが、今でも重要な収益源になっています。
    つまり、現在の投資は今すぐの利益のためというより、将来の収益の土台をつくる意味合いが強いです。そのため、短期の採算だけで投資の是非を判断すると、将来の収益源そのものを細らせてしまいます。航空エンジン事業では、そうした時間差を前提に、今何をするべきかを判断しています。

    小林:エネルギーやインフラでもその点は共通しています。既存の事業だけを見ると、短い期間で利益が出やすい案件に集中した方が効率的に見えることはあります。ただ、それだけでは新しい市場は生まれません。
    新しい事業は、複数の条件が揃って初めて立ち上がります。だからこそ、今ある事業でキャッシュを確保しながら、新しい取り組みに振り向けていく必要があります。その両方をどう成り立たせるかが、経営の重要な判断だと思っています。

  • 経営資源を振り向ける対象の考え方

    経営資源を集中する事業をどのような基準で判断していますか。

    盛田:前提として、全ての事業を同じように強化することはできません。それぞれの事業はこれまでグループの価値を支えてきたものですが、経営資源には限りがあります。
    そのため今は、どの事業がこれから先も継続的に価値を生み、グループ全体の競争力につながるのかという観点で、資源配分を見直しています。
    技術についても、単に性能が高い、新しい、といったことだけでは判断していません。重要なのは、その技術が長く競争力の源泉になるかどうかです。
    例えば、品質や実績、ノウハウなどが積み上がることで、競合が簡単には追いつけない状態をつくれる技術は、時間が経つほど強くなります。そういう技術には、資源を集中させています。
    逆に、技術として成り立っていても、差別化につながりにくいものや、価格競争に巻き込まれやすいものは、優先順位を下げます。

    小林:事業開発の観点では、2つのことを見ています。
    一つは、単発で終わるのではなく、納入後も価値を出し続けられるかどうかです。もう一つは、IHIグループが関わることで、その事業が広がっていくかどうかです。
    ここで大事なのは、私たちは「すでにある需要に応える」だけではなく、その技術をどう継続的な事業にしていくかを考えているという点です。
    例えばアンモニアの取り組みでも、最初は「アンモニアを燃焼できるのだから、その機器を販売すればよい」という発想はありました。ただ、それでは個別の設備納入で終わり、事業としての広がりは大きくありません。
    そこでIHIグループは、燃焼技術にとどまらず、燃料の製造、輸送・貯蔵、供給、利活用まで含めた形で組み立てています。社会実装に向けた政府の支援制度やお客さまの投資判断も含めて成立させることで、継続的な事業にします。
    その意味で、私たちが見ているのは市場の大きさだけではなく、事業として継続的に価値が積み上がる事業構造をつくれるかどうかです。

    佐藤:エアロスペースの分野でも基本的な考え⽅は変わりません。
    新規案件を広く取れば短期的な売上は増えるかもしれませんが、供給能力が分散すると、本来強化すべき部分に十分な資源を回せなくなります。
    そのため、案件の数ではなく、長期的にどこで収益が積み上がるかを見て判断しています。新製エンジンだけでなく、その後の整備や修理、スペアパーツまで含めて価値が出る部分に資源を集中しています。
    また、航空エンジンの事業は、高温に耐える材料、それを加工する技術、品質保証、認証、整備体制まで含めて一体で成り立っています。
    従って、将来どの工程で継続的に利益を生み出せるのかを見極めて、その部分に対応する能力の維持・強化を判断します。

  • 技術を起点とした事業化の考え方

    資源を集中させ、事業化を進める中で、成熟した技術があっても、事業化しないことはあるのですか。

    小林:あります。技術があることと、事業として成り立つことは区別して検討する必要があります。
    私たちが見ているのは、その技術を使うお客さまが実際に設備投資判断を行うのか、必要な制度や商流が整うのか、そして事業として継続できる形になるのか、という点です。
    こうした条件が揃わない場合、技術としては成立していても、事業として十分に価値を発揮できません。
    そのため、研究開発として継続する、別の組み合わせを探る、既存事業の中で技術を使う、といった形でつないでいくことがあります。

    盛田:技術側から⾒ても同様です。研究開発の投資は、できるだけ早く事業につながる方が望ましいのは事実です。一方で、技術開発が先行していても、それを受け止める事業や市場側がまだ整っていないことがあります。
    その場合は、今事業に直結するもの、既存事業の競争力をさらに高めるもの、将来の選択肢として持っておくものを分けて見ています。
    それぞれについて、どのくらいの時間軸で事業に結びつくのか、どの事業と組み合わせることで価値を出せるのかといった観点で評価しています。
    ここでの基準は、その技術が将来どのような形で競争力に結びつくのかです。今すぐ利益になるかどうかだけではなく、将来の勝ち筋につながるかを見ています。

    佐藤:航空エンジンではさらに、供給体制まで含めて判断します。技術的に可能でも、それを安定して供給し続ける材料や加工、整備の体制がなければ、事業としては続きません。
    特に航空では、一度市場に出したものを長く安定して支え続けることが前提になるため、「つくれるか」だけでなく、「支え続けられるか」までのサプライチェーンを見ないと事業判断にはなりません。

  • 限られた経営資源をどう配分するか

    人財・設備が限られる中、グループ全体の競争力という観点で、事業間の優先順位はどう決めるのですか。

    盛田:現在の制約は需要よりも供給側にあります。人財、設備、サプライチェーンのいずれも十分とは言えません。
    そのため、どこに資源を配分するかは成長戦略そのものです。

    小林:特に人財は大きな制約です。ある事業にシフトすれば、別の事業では不足が生まれます。
    そのため、各事業単体ではなく、グループ全体としてどこに配分するのが最も効果的かという観点で判断しています。既存事業の蓄積を土台にしながら、限られた資源をどこに追加で振り向けるかを見ています。
    そのとき重要なのは、短期の収益だけではなく、その事業が将来どの程度伸びるのか、他の事業にどうつながるのか、グループ全体の価値にどれだけ影響するのかという点です。

    佐藤:航空エンジンと防衛では、需要に対して単純に人を増やすことで対応するのではなく、限られた人員でどれだけ生産量を高められるかが重要になります。
    そのため、生産工程の自動化、デジタル技術の活用、AIによる作業配分の見直しなどを進めています。
    需要は大きいものの、供給能力が追いつかなければ機会は失われます。だからこそ、やり方そのものを変えて生産性を上げることに注力しています。

  • 想定どおりに条件が揃わないリスクへの対応

    現在の戦略における主なリスクと、それにどのように対応していますか。

    盛田:最大のリスクは、供給能力が需要拡大に追いつかないことです。
    そのため、資源配分の見直しによる供給能力の向上を継続的に行っています。必要な投資を前倒しで進めること、どこにどれだけ資源を振り向けるかを継続的に見直すこと、それによって成長機会を取りこぼさないようにしています。

    小林:加えて、想定している条件が予定どおりに揃わないことです。具体的には、お客さまの設備投資判断が進まない、制度の整備が遅れる、供給体制が十分に構築できないといったことが重なると、事業としての立ち上がりは遅れます。
    需要は自然に生まれて広がるものではなく、お客さまの設備投資判断、制度、供給インフラなどの条件が揃って初めて実際の取引につながります。
    対処としては、お客さまとの対話を通じた設備投資判断の具体化、制度への働きかけ、パートナーとの連携による供給体制の構築などを進めています。
    こうした取り組みを通じて、事業が進む前提条件を自ら整えていくことが重要だと考えています。

    佐藤:航空エンジン事業ではサプライチェーンの不安定さがリスクです。
    これに対しては、ボトルネックとなる工程や能力を特定し、必要な投資やパートナー連携を通じて、サプライチェーンを補強しています。どこが止まると全体が止まるのかを見極めた上で、重点的に対処することが必要です。
    航空エンジンは1つの部材や工程の遅れが全体に波及しやすいため、サプライチェーンの弱い部分を事前に特定し、そこに手を打つことがリスク対応の基本になります。

  • IHIグループが提供する価値

    ここまでのお話を踏まえ、IHIグループとして今後どのような価値を創出していこうとしているのか、お聞かせください。

    盛田:私たちが取り組むエアロスペース、エネルギー、インフラはいずれも、社会の基盤そのものを支える分野です。
    これらの分野では短期間で成果を出すことよりも、長い時間をかけて技術と実績を積み重ね、その結果として信頼を得ることが重要となります。
    その中でIHIグループとしては、どの領域で競争力を発揮し続けられるのかを見極めながら、そこに資源を集中し、長期的に価値を生み続けていくことが基本になります。

    小林:その過程で重要になるのは、技術や事業を単体で考えないことです。
    これまでお話ししてきたように、事業は技術だけで成立するものではなく、お客さまの投資判断、制度、供給体制などが揃って初めて成り立ちます。
    したがって、そうした条件をどう揃えるか、自分たちがどこまで関与するのかを考えながら、事業全体を設計していく必要があります。
    その中で、自分たちが価値を発揮すべき範囲と、パートナーと組む部分を見極めながら、継続的に価値が積み上がる形をつくっていきたいと考えています。

    佐藤:エアロスペースの分野でもその考え方が重要になります。私たちはこれまで、技術や事業、供給体制を組み合わせながら、長い時間をかけて事業の基盤を築いてきました。
    今後はそれを前提に、需要の拡大に対して供給能力をどう高めるかが重要になります。その際には、人員を単純に増やすのではなく、生産のやり方そのものを見直しながら対応していきます。
    そうした取り組みを通じて、必要とされる分野で責任を果たし続けることが、結果として長期的な価値創出につながると考えています。

本ページでは、IHIグループの3人の副社長が、長期的な競争力を生み出し続けるための経営の考え方を語ります。短期的な採算だけではなく、将来の競争力や収益基盤につながるかという視点で投資や資源配分を判断し、技術・事業・供給体制を一体で強化していく考え方を紹介します。また、事業化の条件整備や供給能力向上など、持続的な成長を支える取り組みについても説明します。